医師が薬の処方箋を出すように、スポーツトレーナーは目的に合わせて「運動処方」を出すことがあります。
「運動処方」という言葉は、一般の人はあまり聞いたことがないかもしれません。ですが、スポーツ医学の分野では欠かせないキーワードなのです。
スポーツトレーナーの仕事に深く関わる「運動処方」とは、どのようなものなのでしょうか? 運動処方の内容や必要性、組み立てる際のポイントなどを、分かりやすく紹介します。
「運動処方」とは、病気の予防・改善や健康づくりを目的として、生理学的な根拠にもとづいて組み立てられた運動プログラムのことです。
この運動処方は、次のような人にとっては重要な指針になります。
運動処方が必要な人の例
上記のような目的を持つ人々に向けて、スポーツトレーナーや医師など専門知識を持つプロが組み立てる、「どのように運動を進めるべきか」という運動プログラム。それが、運動処方です。
スポーツトレーナーの場合、ジムやフィットネスクラブの利用者、パーソナルトレーニングの利用者、提携している医療機関から紹介を受けた患者などに向けて、運動処方を作成することがあります。
運動処方には、次のような内容が含まれます。
運動処方の内容
こうした内容について、プロの知識をもとに運動計画を組み立てます。
習慣的な運動は、心臓や血管をはじめとする身体機能を高め、健康を保つのに役立ちます。しかし、運動の強度が高すぎたり、今まで運動していなかった人が急に激しい運動を始めたりすると、かえって身体に負担をかけてしまいます。
また、体力や体質には個人差があります。一般の人が運動の効果と安全性を正確に見極めるのは難しく、これらを総合的に判断するには、人間の身体とスポーツに関する専門知識が必要です。
体質や目的に合わない過度な運動は、ケガや病気を引き起こしたり、持病の悪化に繋がったりする恐れがあります。こうしたリスクを回避するためにあるのが、運動処方です。
運動処方を作成する際は、運動を行う人の体力、体質、既往歴(病気やケガの経験)、生活習慣など、さまざまな要素を考え合わせ、安全性を最優先に考慮することが求められます。
運動処方では、安全性を確保することが大切です。
とくに糖尿病など病気の改善を目的とする場合、安全な運動プログラムを作成するために、次のような手順で行うことが望ましいとされています。
運動処方の手順
まずは「問診」を行い、生活習慣や運動習慣、既往歴などを確認します。次に、血圧測定や血液検査、心電図といった「メディカルチェック」を行い、身体の状態を正確に把握します。
そして、現時点での体力を確認するため、「体力測定」を行います。これらの結果を総合的に考慮しながら、「運動の目的を確認」し、「目標設定」を行います。
こうしたステップを踏むことで、実際に運動する人の体力や体質を正確に把握することができます。これらは病気やケガのリスクを回避し、効果的で安全な運動計画を立てるために大切な手順です。
また、厚生労働省「e-ヘルスネット」によれば、上記に加え、
・運動中は、潜在的なリスク、体力水準、体組成などをチェックする
・運動後には、定期的にトレーニングの効果を測定し、必要に応じてプログラム内容を更新する
こうした手順を意識することが望ましいとされています。
また、「eヘルスネット」内の「運動プログラム作成のための原理原則」には、トレーニングの「原理原則」についても記載されています。
効果的なプログラムを作成するためには、トレーニングの「3つの原理」と「6つの原則」を意識することが大切であるとされており、それぞれの内容は次のとおりです。
(1)過負荷の原理
運動の効果を得るためには、ある程度の負荷をかける必要がある、という原理。効果を得るために必要な強度の最低ラインは「日常生活で発揮される力以上」の負荷、とされています。
(2)特異性の原理
運動の仕方によって、鍛えられる能力が異なる、という原理。たとえば、「スクワットなど下半身のトレーニングで上半身を鍛えることは難しい」「短距離走と長距離走ではトレーニングの仕方が異なる」といったことを指しています。
(3)可逆性の原理
トレーニングによって効果を得ても、運動を中止すれば元の状態に戻る、という原理。「可逆性」とは、元の状態に戻る性質のことです。筋トレをして立派な筋肉がついても、その後何もしなければ筋肉はどんどん落ちていってしまいます。運動を行う際は、無理なく継続できるかどうかも重要になります。
続いて、「6つの原則」について見てみましょう。
(1)意識性の原則
トレーニングの内容や目的を理解した上で、運動に取り組むこと。たとえば、健康のために減量したいのであれば、「○kg減量するためには、有酸素運動を優先した上で、補助的に筋トレを行うと良い」といったことを把握していれば、漫然と行うよりも運動の効果が出やすく、継続もしやすくなります。
(2)全面性の原則
持久力、筋力、柔軟性といった要素を、総合的にバランス良く高めること。たとえば、偏った部位ばかり筋トレするのではなく、全身を鍛えたり、大きな筋肉を優先的にトレーニングしたり、有酸素・無酸素運動を組み合わせて行ったりする方が良い、ということです。
(3)専門性の原則
目的に合った機能を優先的に鍛え、効率を高めること。たとえば、健康づくりと競技のためのトレーニングでは、行うべきことが違ってきます。また、特定の競技種目で結果を出したいのであれば、それに沿った運動プログラムが必要になります。
(4)個別性の原則
運動を行う本人の体力や体質、運動能力などに合わせてプログラムを決めること。体質や能力の個人差に合わせて考えていくことで、効果的かつ安全性の高い運動処方を提供できます。
(5)漸進性(ぜんしんせい)の原則
体力や運動能力がアップしていくのに合わせ、随時プログラムを見直し、運動の強度や頻度などを変えていくこと。運動習慣がない人が急に激しい運動をするのは危険ですが、反対に、充分筋肉がついてきた段階で軽い運動ばかり繰り返しても効果が低くなってしまう、ということです。
(6)反復性・周期性の原則
「反復性の原則」は、ある程度の期間同じ運動プログラムを繰り返し行うべき、ということ。たとえば効果的な筋トレのフォームを身につけるためには、同じ動きを何度も行う必要があります。
「周期性の原則」は、1年間を通して運動計画を立てること。どの期間に、どのような運動を行うのが最も効果的なのか、期間ごとにプログラムを考えていくことで、より良い運動処方を組み立てることができます。
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医師が薬の処方箋を出すように、スポーツトレーナーは目的に合わせて「運動処方」を出すことがあります。
「運動処方」という言葉は、一般の人はあまり聞いたことがないかもしれません。ですが、スポーツ医学の分野では欠かせないキーワードなのです。
スポーツトレーナーの仕事に深く関わる「運動処方」とは、どのようなものなのでしょうか? 運動処方の内容や必要性、組み立てる際のポイントなどを、分かりやすく紹介します。
「運動処方」とは、病気の予防・改善や健康づくりを目的として、生理学的な根拠にもとづいて組み立てられた運動プログラムのことです。
この運動処方は、次のような人にとっては重要な指針になります。
運動処方が必要な人の例
上記のような目的を持つ人々に向けて、スポーツトレーナーや医師など専門知識を持つプロが組み立てる、「どのように運動を進めるべきか」という運動プログラム。それが、運動処方です。
スポーツトレーナーの場合、ジムやフィットネスクラブの利用者、パーソナルトレーニングの利用者、提携している医療機関から紹介を受けた患者などに向けて、運動処方を作成することがあります。
運動処方には、次のような内容が含まれます。
運動処方の内容
こうした内容について、プロの知識をもとに運動計画を組み立てます。
習慣的な運動は、心臓や血管をはじめとする身体機能を高め、健康を保つのに役立ちます。しかし、運動の強度が高すぎたり、今まで運動していなかった人が急に激しい運動を始めたりすると、かえって身体に負担をかけてしまいます。
また、体力や体質には個人差があります。一般の人が運動の効果と安全性を正確に見極めるのは難しく、これらを総合的に判断するには、人間の身体とスポーツに関する専門知識が必要です。
体質や目的に合わない過度な運動は、ケガや病気を引き起こしたり、持病の悪化に繋がったりする恐れがあります。こうしたリスクを回避するためにあるのが、運動処方です。
運動処方を作成する際は、運動を行う人の体力、体質、既往歴(病気やケガの経験)、生活習慣など、さまざまな要素を考え合わせ、安全性を最優先に考慮することが求められます。
運動処方では、安全性を確保することが大切です。
とくに糖尿病など病気の改善を目的とする場合、安全な運動プログラムを作成するために、次のような手順で行うことが望ましいとされています。
運動処方の手順
まずは「問診」を行い、生活習慣や運動習慣、既往歴などを確認します。次に、血圧測定や血液検査、心電図といった「メディカルチェック」を行い、身体の状態を正確に把握します。
そして、現時点での体力を確認するため、「体力測定」を行います。これらの結果を総合的に考慮しながら、「運動の目的を確認」し、「目標設定」を行います。
こうしたステップを踏むことで、実際に運動する人の体力や体質を正確に把握することができます。これらは病気やケガのリスクを回避し、効果的で安全な運動計画を立てるために大切な手順です。
また、厚生労働省「e-ヘルスネット」によれば、上記に加え、
・運動中は、潜在的なリスク、体力水準、体組成などをチェックする
・運動後には、定期的にトレーニングの効果を測定し、必要に応じてプログラム内容を更新する
こうした手順を意識することが望ましいとされています。
また、「eヘルスネット」内の「運動プログラム作成のための原理原則」には、トレーニングの「原理原則」についても記載されています。
効果的なプログラムを作成するためには、トレーニングの「3つの原理」と「6つの原則」を意識することが大切であるとされており、それぞれの内容は次のとおりです。
(1)過負荷の原理
運動の効果を得るためには、ある程度の負荷をかける必要がある、という原理。効果を得るために必要な強度の最低ラインは「日常生活で発揮される力以上」の負荷、とされています。
(2)特異性の原理
運動の仕方によって、鍛えられる能力が異なる、という原理。たとえば、「スクワットなど下半身のトレーニングで上半身を鍛えることは難しい」「短距離走と長距離走ではトレーニングの仕方が異なる」といったことを指しています。
(3)可逆性の原理
トレーニングによって効果を得ても、運動を中止すれば元の状態に戻る、という原理。「可逆性」とは、元の状態に戻る性質のことです。筋トレをして立派な筋肉がついても、その後何もしなければ筋肉はどんどん落ちていってしまいます。運動を行う際は、無理なく継続できるかどうかも重要になります。
続いて、「6つの原則」について見てみましょう。
(1)意識性の原則
トレーニングの内容や目的を理解した上で、運動に取り組むこと。たとえば、健康のために減量したいのであれば、「○kg減量するためには、有酸素運動を優先した上で、補助的に筋トレを行うと良い」といったことを把握していれば、漫然と行うよりも運動の効果が出やすく、継続もしやすくなります。
(2)全面性の原則
持久力、筋力、柔軟性といった要素を、総合的にバランス良く高めること。たとえば、偏った部位ばかり筋トレするのではなく、全身を鍛えたり、大きな筋肉を優先的にトレーニングしたり、有酸素・無酸素運動を組み合わせて行ったりする方が良い、ということです。
(3)専門性の原則
目的に合った機能を優先的に鍛え、効率を高めること。たとえば、健康づくりと競技のためのトレーニングでは、行うべきことが違ってきます。また、特定の競技種目で結果を出したいのであれば、それに沿った運動プログラムが必要になります。
(4)個別性の原則
運動を行う本人の体力や体質、運動能力などに合わせてプログラムを決めること。体質や能力の個人差に合わせて考えていくことで、効果的かつ安全性の高い運動処方を提供できます。
(5)漸進性(ぜんしんせい)の原則
体力や運動能力がアップしていくのに合わせ、随時プログラムを見直し、運動の強度や頻度などを変えていくこと。運動習慣がない人が急に激しい運動をするのは危険ですが、反対に、充分筋肉がついてきた段階で軽い運動ばかり繰り返しても効果が低くなってしまう、ということです。
(6)反復性・周期性の原則
「反復性の原則」は、ある程度の期間同じ運動プログラムを繰り返し行うべき、ということ。たとえば効果的な筋トレのフォームを身につけるためには、同じ動きを何度も行う必要があります。
「周期性の原則」は、1年間を通して運動計画を立てること。どの期間に、どのような運動を行うのが最も効果的なのか、期間ごとにプログラムを考えていくことで、より良い運動処方を組み立てることができます。
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